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curry-lab columコラム

泉井秀介(スパイス研究家)

江戸雪(歌人)その1

江戸雪(歌人)その2

 

 

 

 

 

 

 

ゆるすのは誰なんだろう指笛にふりむきながら雑踏のなか
江戸 雪

 

インドのヴァラナシという街を思い出して作った短歌である。インドへ行ったのはもう20年も前のこと。独り、ガンジス川の流れを見たくて、リュックひとつを担いでの旅だった。目的のガンジス川に辿り着くまでにいくつかの街を通り過ぎた。そのたびに、私がもっとも感じたのは「ゆるし」だった。

この「ゆるし」とは、罪や咎を免じる「許し」ではなく、張りつめた心をゆるめる「緩し」である。とにかく時間や人がゆったりと流れていた。
その頃は、この「緩し」がどこから生まれてくるのか、わからなかった。けれど、今は要因のひとつにスパイスがあるとおもっている。インドはスパイスの国、何処でどんな食べ物を注文してもスパイスたっぷりのものが出てくる。インドに滞在している間 、まさしく身体にスパイスが充ち満ちていた。思えば、スパイスには、事物やひとをリラックスさせるパワーがあるのだ。きっと。

そう思い始めたのは、何年か前、仕事がいきづまったり、日常から離れて一息いれたいとき、美味しいチャイを飲ませてくれるお店に行くようになってから。一番のお気に入りはジンジャーチャイだが、その日の気分でカルダモンやアニスなど、スパイスを変える。緊張して疲れていた心はほぐれ、身体のすみずみの不要な力が抜けてしなやかな気分になっていく。そんな時間を持つようになって、わたしはスパイスの「緩し」パワーをぼんやりと発見したわけだ。

 

江戸雪(えど・ゆき) 歌人。大阪府生まれ。
歌集に『百合オイル』、『椿夜』(咲くやこの花賞、ながらみ 現代短歌賞)、
『Door』『駒鳥(ロビン)』。入門書『今日から歌人!』。